私たちが、普段、電話をかけたときに当たり前のように口にしている「もしもし」という言葉が妖怪と関係のある意味を持つ言葉だったなんて、あなたは信じますか?妖怪だなんて、何だか日本昔話のどこかに登場してくるような話で、私なんかはワクワクドキドキしてしまいますが、そもそもこの「もしもし」の意味や語源は何なのでしょう。
子どもの頃、電話をかけたときは「もしもし」っていうんですよ、と教わったことがありますが、この「もしもし」は、決して電話で話をするときだけに使われる言葉ではないですよね。私たちは、人を呼び止めるときにもこの「もしもし」を使います。「もしもし、傘をお忘れですよ」みたいに…。ならば語源はあるはず。
つまり、昔使われていた言葉が転じて「もしもし」になった、と考えても不思議ではありませんよね。そこで今回は、このように日常で何気なく使っているこの「もしもし」について、意味や語源、さらには昔代わりにどんな言葉が使われていたのか、調べてみることにしました。
もしもしの意味や語源は妖怪か確認するため?
正しい意味を知るためにも、まずは語源を明らかにしたいと思い調べてみました。そして見つけた言葉が、「申し(もうし)」です。江戸時代に、「これから物を申します、申し上げます」といった意味で人に呼びかけるときに使われていた言葉です。当時はこの「申し」という言葉が、それも1回だけ使われていたとのこと。その「申し」が「もし」になったわけです。つまり語源は「申し」なのですね。
でも、どうして「もしもし」と2回「もし」を続けていうようになったのでしょう。実は、ここに「妖怪」が関わってくるのです。「もし」と1回だけいうよりは、「もしもし」と2回繰り返していった方がていねいだから、とする語源説もありますが、それよりももっと「なるほど」と納得する語源説があるのです。そう、妖怪説です。
実は、昔、日本では、妖怪や幽霊が人間を呼び止めるときに、必ず「もし」と声をかけてきて、それに返事をすると魂を吸い取られてしまうといういい伝えがあったというのです。それが原因で、「もし」を単独で1回いっただけでは妖怪や幽霊だと思ってだれも返事をしなくなってしまったのですね。そこで、「もしもし」と「もし」を2回繰り返すことで、「私は妖怪でも幽霊でもありませんよ」という確認を行う習慣ができたというのです。この妖怪説は明治時代に入っても一部の地方ではいい伝えとして残っているようで、柳田國男の『妖怪談義』にも収録されています。そういえば、怪談をテーマにした映画などで、幽霊が「もし…」と呼びかけているシーンを見たような記憶があります。
スポンサーリンクもしもしの代わりの言い方とは?
これで、「もしもし」の代わりに使われていた言葉が元々は「申し」だということはわかりました。…が、もう1つ、解明しなければならないことがあります。そう、「もしもし」がどうして電話で使われるようになったのか、電話が開通した当初から「もしもし」が使われていたのか、それとも、「もしもし」の代わりの言い方があったのかどうか、ということです。
日本で電話が開通したのは明治時代ですが、当初は、地位や身分の高い人くらいしか電話を持ったり使ったりする人はいませんでした。それにあの頃の電話は雑音も多くてなかなか聞き取りにくかったようで、「おーい、聞こえているか?」といった意味で、大きな声で「おいおい」とか「こらこら」とかいっていたそうです。2回繰り返すのは、聞こえているかどうかしっかりと確認するためだったようです。この「おい」や「こら」は町中でも巡査などが人に呼びかけるときに口にしていた言葉でした。
それが大正時代に入ってから、当時の警視総監が、民衆にはていねいな言葉を使おうと教示したために、電話でも「おい」や「こら」の代わりに「申し、申し」と、確認のために2回繰り返していわれるようになったのですね。「申し上げます、申し上げます」という意味で使われていたのです。そしてそれが今の「もしもし」になったというわけです。つまりは、電話の「もしもし」の語源も、「申し」にあったということです。
まとめ
今回は、日ごろ何気なく口を突いて出る「もしもし」について調べてみました。その結果、この「もしもし」という言葉も、妖怪のいい伝えなど歴史的な背景や意味を持っていることがわかりました。語源の「申し」がその時代の社会的な風習や民衆の生活環境に適応するためにいろいろと言い方が変化していく経緯を知るにつれて、言葉というものは生きているんだな、とつくづく思ってしまいました。それに、この「もしもし」の意味と語源を知ってしまうと、今まで粗雑に扱ってきたこの言葉に、日本人の持つ礼節といった美徳がたっぷり詰まっているように思えてきて、「今までごめんなさい」と頭を下げたくなります。言葉の意味や語源を知ることは、その言葉の使い方に気をつかうということになるのですね。
これからも言葉の意味や語源、大切にしたいと思います。最後に、これは余談になるかもしれませんが、一言付け加えておきたいことがあります。ビジネスの電話で「もしもし」と同じ言葉を2回繰り返していうのは失礼だ、というとらえ方もあるので、相手によっては、「もしもし」を口にせずに、代わりに「こちらは○○ですが」とか「日ごろはいろいろとお世話になっております」とかいった言葉を使うようにした方がいいかもしれませんね。
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